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中小企業における地震に対するリスクファイナンスの現状と課題

はじめに

企業の経営者が地震などの自然災害に備えてリスクファイナンスの一つとして地震保険への加入やリスクコントロールの一つとして自社工場を免震・耐震化の取り組みを行うことは建物や事業用資産の被害を軽減することができるという点でも大きなメリットがあります、また事業の復旧を円滑に進められるという点で事業活動の中断を最小限に止めることもできます。これらの点で地震などのリスクに備えることは中小企業にメリットをもたらすものといえます。また保険加入などの手段を組み合わせて活用することにより経済的なメリットも高まっていきます。

日本は世界でも類を見ないほどの地震地帯となっています。我が国の国土面積は全世界の0.25%を占めています。ただ被害額は世界全体の17%を占めており自然災害による被害をかなり受けやすい国であるといえます。ただ日本の中小企業は事業継続計画の策定率が低いことが問題となっています。ここからも災害への備えは不十分といえます。やはり災害時に備えて中小企業が事業継続におけるリスクファイナンスやリスクコントロールを含めた事業継続ができるように取り組んでいくことが重要といえます。

事業継続計画(BCP)

日本の中小企業による事業継続計画はとても低い状況といえます。事業継続計画を策定しない理由としてはリスクファイナンスを行うだけのノウハウを持っていないこと・そして人材や資金不足などが挙げられています。また無関心という企業も多くあります。日本における中小企業の多くは日々の売上や利益を挙げるのに精一杯な状況というところも多くそういう面でリスクファイナンスを行えるような状況ではないというのも現実的かなという気がします。

国や地方公共団体においては事業継続計画が普及するような環境を作っています。例えば事業継続計画の策定・運用に必要な事項等をまとめた「中小企業事業継続計画策定運用指針」の公表を行っています。また日本政策金融公庫において当該指針に基づき策定した事業継続計画による施設の耐震化などの取組に対して低利融資を行う制度を設けて事業継続計画の策定支援を行っています。

また地方公共団体においても事業継続計画に熱心に取り組んでいるところも多くなっています。静岡県では損害保険会社と連携を図ることで代理店が個々の中小企業と接点を持ちながらリスクファイナンスを含む事業継続計画の普及活動に取り組んでいます。

中小企業におけるリスクファイナンスの現状

中小企業におけるリスクファイナンスでは自己資金、保険・共済、保険デリバティブ、災害コミットメント、キャットポンドなどの金融・保険商品が用意されています。

ただ中小企業においては事業継続計画への認識が低い企業が多いことや地震などのリスクが顕在化して経済的損失が発生した場合にも企業の運転資金や復旧資金を事前にプールしておくなどのリスクファイナンスの重要性についてもいまだ興味企業を持っていない企業がほとんどという実態があります。

このためリスクファイナンスの一つの方法として考えられる保険・共済の取組の状況についてアンケート調査を行っています。今回は被災地に対するアンケート調査(熊本地震、中越地震、能登半島地震)を行いました。

被災時において保険・や共済に加入していた者の割合は65%と多くありました。ただ多くは火災保険や共済が大半となっていました。地震に関する共済や保険に加入している企業は多くありませんでした。また加入していた企業も災害発生時に支払われた保険金・共済金だけでは全ての事業再開費用をカバーするには至らなかったという事情があります。

中小企業におけるリスクファイナンスの問題点

中小企業にとってはこのリスクファイナンスという事前対策をすることと経営面では負の相関関係になっているのではないかという危惧を感じます。具体的な分析事例から見ても事前対策を行っている企業は東日本大震災以降に増えてはきています。ただ経営状態の良くない企業はリスクファイナンスなどに手をつけている余裕はありません。こういった企業ではリスクに対する備えが手薄となっています。

中小企業の保険や共済の加入状況

被災地へのアンケートから保険や共済への加入するための大きな理由として、施設などの復旧資金確保や災害時の運転資金の確保などを挙げている方が多くいます。

保険や共済に加入していてメリットが多かったという事業者も実際に50%以上いました。ただ保険や共済の資金だけでは施設や設備などを復旧することはできなかった・保険金の支払い対象にもならなかったという回答も多くありました。保険や共済だけでは大きな災害が起こってしまうと事業を継続するための資金を確保することが難しいのかなという気がしてきました。

保険や共済に加入をしていなかった企業の大きな理由は、保険金や掛け金がけっこうな高さだった・災害は来ないと思っていたなどの回答もかなりありました。また保険や共済などを知らないという方も1割程度いました。ただ企業地震保険に加入しているところも1割弱ほどありました。ただ逸失利益などを保障する利益保険やデリバティブなどについては加入が進んでいません。

日本における自然災害の多くは台風などの水害が6割ほどを占めています。ただ大きな地震が起こってしまうと広範囲なところで被害が出てしまいます。被害額という面では地震が大きな損害を受けてしまいます。地震では活断層の所在があると被害を受けてしまう可能性の高い傾向があります。保険料の判定基準はリスクに応じて算定されます。一般的に中小企業が活用しやすい保険料や契約条件を設定しにくいという現状もあります。

企業向けの地震保険の現状

企業向けの地震保険では損害保険会社の企業向け地震保険を例にとると、地震リスクの高い地域と地震リスクの低い地域では年間の地震保険料金が2倍から地域によっては3倍近く異なってきます。企業向けの地震特約保険などでは首都直下地震や南海トラフ地震などが予想される地震リスクの高い地域で保険料が相対的に高額となっています。さらに多くの企業が集中するところでもあるので支払限度額も相対的に低くなる傾向にあります。

このように地域によって支払う保険料や災害が起こってしまった場合の処理や関係者との調整などは今後の課題になってくるのかなという気がします。

中小企業のリスクファイナンスの今後の方向性

中小企業へのリスクファイナンスへの支援にも一定の限度があります。基本的には個々の事業者の自助努力が求められます。ただ中小企業自らの取れるリスクファイナンスに関しても限界があります。損害保険や共済などについても その補償額やコスト面からの利用のしやすさに限界があります。

中小企業に求められるリ災害対応としては特定の手法で行うことは難しい状況ともいえます。現実的には平時からの経営力の強化が大事になってきそうです。

その一環として事業継続計画の策定や必要となるリスクファイナンスの利用を複合的に行う必要があります。この中小企業の事業継続計画の策定推進のための広報や事業継続計画の策定ツールの提供さらに事業継続計画を策定した企業が取り組む施設や整備に必要な低利の融資制度も創設はされています。ただまだ全般的には十分な水準とはいえない状況といえます。今後も議論を深めていくことが必要といえそうです。

ただ個々のほとんどの事業者にとってこれらの事前対策はあくまで備えということになってしまいます。ということもあって経営の中心課題とは認識されにくいという現実を見ていく必要があります。

中小企業におけるリスクファイナンスの検討

リスクファイナンスのうちで企業の地震保険は風水害をカバーする保険に比べてもリスクが大きくなる傾向があります。特に地震のリスクの高い地域ではこのような傾向が高くなっています。他方で震災後などの休業補償などを行っている共済などでは災害で休業した場合などに粗利益日額の一部を支払う「休業対応応援共済」というものがあります。これが商工団体と連携しているケースでもあります。こういった共済を地域の小規模事業者向けのリスクファイナンスの一つとして活用の可能性を考えても良いのではないかと思われます。

中小企業向けのリスクファイナンスに活用できる手法が充実することもたしかに大事なことです。ただ、リスクファイナンスの手法を熟知していない中小企業の経営者がこれらを効果的に利用するためにはマネジメントという面でのサポートも必要になってくるのではないかと思われます。

大企業では事業の規模が大きくため事業全体や地域でリスクを分散するなどの施策を取っているところが多いです。事業継続のために保険・共済でカバーしなければならない範囲も比較的広く保険や共済を活用しやすい状況になっています。ただ中小企業においては事業継続計画の策定も進まない中で大企業と同様のマネジメントを行うことはかなり難しい状況といえます。その実態を踏まえて災害時におけるリスクファイナンスとしてどのような手法を使いながらそれをどのように活用していくかをサポートしていく必要があります。

いまだ中小企業における企業向け地震保険等のリスクファイナンスの利用は依然として限定的な状況といえます。中小企業のリスクファイナンスを行うには中小企業などが地域を問わず利用しやすい汎用的な保険・共済などのサービスを初めとした環境整備を行っていく必要があるのではないかと考えています。これにはまだ多くの課題があるというのが現状となっています。引き続き継続的に検討をしていかなければならないものといえます。

やはり中小企業におけるリスクファイナンスの課題解決というものはかなりの時間と資金を要するものといえます。被災した中小企業を支援していく方法をどうしていくかは今後の大きな課題として残りそうです。