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特集

日本企業とリスクファイナンス

はじめに

日本企業のリスクファイナンスに対する保険の加入率が低くなっています。何らかの災害保険に入っている日本企業は大手・準大手・中堅企業で60%弱、中小・零細・個人企業で47%程度に留まっています。
ただ大半の企業は地震などで潜在的に重篤な被害を与えうる災害を事前に特定化しています。災害リスク管理に関する経営者でリスクファイナンスを意識している方は半数程度に留まっていることが分かってきています。

また災害保険の加入をしている方もカバーできる範囲が財産の範囲で保障までは考えていない方が大半です。保険に加入していない企業の多くは予算の問題という面が多くを占めています。加入したいけど目先のことが優先でそのような余裕はまだないというのが実際問題としてあります。

ただ今後は災害に対しての経営管理をもっとしっかりと行うべきではないかと思われます。このようなデータは経営者の災害リスクの管理や災害保険の認知を改善させていく一つの指標になっていくのではないかと思われます。

自然災害は増加中

自然災害は世界規模で増加してきています。特に日本などの東アジアはその中でも要注意地域です。地震・津波・噴火・台風・洪水・雪崩・地すべりなどの数多くの自然災害に遭遇をしてしまう可能性が高くなります。ただ最もその中でも大きな被害になってしまうのがやはり地震ではないかと思われます。

日本で地震が大きなリスクとなっている根拠としては世界の10大プレートのうちの4つが日本付近にあるということです。その4つは互いに圧縮・圧迫しあっているところからひずみでいつどうなってもおかしくない状況が続いています。阪神大震災以降の1996年から2005年までの10年でマグニチュード6.0以上の地震が世界で912回ありました。その中で日本に絡んだものが190回もありました。年平均で20回近くも日本のどこかでマグニチュード6クラスの地震が起こっているということです。

経済に大きな影響を与える

自然災害は国の経済に大きな影響を与えていきます。自然災害と経済の相関性を示すデータが実験によって分かってきました。データには各々の災害が前回の災害との期間の長さ・災害の種類・GDPの規模などによっても影響を受けることが分かってきています。その中でも最も大きな影響を与えるのはGDPです。自然災害が1度起こると1人当たりの平均GDPが1%ほど下がります。

これは戦争や内紛などの1人当たり0.5%程度の低下と比較しても倍程度のダメージを受けるということです。このような状況であるにもかかわらず日本の経営者の方は保険に加入しようとしません。たしかに自然災害は発生確率が低く予想が難しいので優先順位を高くできなくてもやむを得ない面もあります。

ただ東日本大震災の例では家計の損失が総額で2000億ドル(22兆円)以上と試算されています。ところが地震保険などでカバーされたのはおよそ20%程度の400億ドル(4.5兆円)程度といわれています。ささらにその16年前に起こった阪神大震災では保険のカバー率はさらに低かったものと推察されます。自然災害の多い国でありながらこのような加入状態になってしまうのは先進国でも日本くらいではないかともいわれています。

参考としてタイでの2011年の大洪水では総額430億ドル(4.7兆円)程度の被害が出ました。その中でも保険でカバーされた額が160億ドル(1.75兆円)ほどとなっています。40%近くがカバーされていますので日本よりもタイの方が災害に対する保険への加入意識が高いということも分かってきました。

サプライチェーン

まだサプライチェーンのネットワークで東日本大震災からどの程度復元をしているのかという検証があります。震災後にどの程度の期間で事業を再開しているのか。また震災前後の売り上げの増減に対する影響をデータ化しています。ここでのサプライチェーンのネットワークには復興に対して正の相関を持っているということが分かってきました。サプライチェーンは地域の復興に大きな役割を果たしているということです。

また地震などの自然災害と銀行の貸出能力の相関性を調べたデータがあります。阪神大震災を例にとったデータなのですが地震で影響を受けた地域の銀行の貸出能力は明らかに落ちていることが分かりました。また地震の影響をあまり受けていない地域の顧客企業の借入制約も悪化させていることも確認されています。

ただこれは日本企業全体というマクロレベルの分析データしかありません。個々の企業というミクロレベルのデータは存在しません。これも日本企業の災害保険への加入率が低くなっている一つの影響ではないかと考えています。

統計データ

このデータは日本企業の1700社超の母集団で中小零細企業が45%弱・中大企業が55%超です。災害のリスクデータを取るものとしてはかなり大きな規模になります。そこから自然災害の特定・BCP/BCMの策定・災害保険への加入・リスクファイナンスなどへの選択決定を促していく決定的なデータといえます。

次回は災害への備えと2016年に起こった熊本大分地震に対する企業の備えについて検証をしていきます。