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災害リスクファイナンスの現状

はじめに

阪神淡路大震災ではおよそ10兆円の損害を受けました。ただ東南海地震などが起こると40兆円以上の損害を受ける可能性が高まります。そうなると大幅な財政出動になります。国も財政赤字が大きいですのでこの額を本当に負担できるのかが心配です。大きな問題になります。後の世代の負担を大きくしないためにも保険加入などのリスク回避に今後は全力を注いでいく必要があります。

災害再保険料

災害再保険料も年々増加傾向になります。再保険の財源が少なくなってくるとリスクが高くなりますので再保険料が高くなって加入率が低くなるという悪循環になります。再保険マーケットの引き受け手がない・引き受け手があってもキャパシティが十分でない・保険料が高すぎて購入できないなどの悩みがあります。

保険リスクを保険業界の資金量の100倍といわれる資本市場に移転していく代替的リスクの移転手段も考えられています。リスク引受の自由度を大きく改善する努力も行われています。

未整備なリスクファイナンス

日本においての大きな欠点はリスクファイナンス市場の規模が小さいことです。伝統的な保険市場と金融市場がお互いに補完していくことで地震保険市場の拡大と保険料率の変動幅縮小に寄与しています。企業は元受け保険会社から直接保険を買ったりキャプティブやファイナイトを介在させて地震リスクのカバーを得ることが出来ます。元受保険会社や再保険会社はCATボンドやCATスワップなどで引受料を上げることができます。

ただ日本では香港・シンガポール・ハワイなどで認められているキャプティブを作ることはできません。ファイナイトも税務上のあいまいさなどから利用ができません。このようなところから日本のリスクファイナンスは欧米に比較しても未整備であると言わざるを得ません。金融も保険のソリューションも高くない国である日本に再保険やキャプティブなどを求めることは本来であれば失当なのかもしれません。ただここを行っていかないと大災害が来た時に企業や市民生活などを守ることができなくなる可能性があるということです。これは切実な問題といえます。

中小企業の問題

阪神淡路大震災では中小企業が資金調達をしていく上で大きなダメージを受けました。サプライチェーンを守る観点から大企業の下請け協力会などの構成員や販売代理店などに対して緊急の融資が行われました。ただし法的な整備は必要です。

また地域的に散在している中小企業向けの地震見舞金付きCATローンが経済産業省から提案されるかもしれません。さらに銀行と保険会社が共同で開発した例として地震デリバティブ付きのローンがあります。貸出金利が通常の融資と比較して高い代わりにマグニチュード7クラス以上の地震があると震源地から一定範囲での企業は融資残高の半額を災害補償金として受け取ることができます。

大企業の問題

大企業や中堅企業は日本に進出している外資系企業はキャプティブやファイナイトスキームを含めて地震リスクも含めての手当てをしていくケースが多くなっています。日本と欧米での企業同士が情報の共有をしていくことが必要になります。キャプティブやファイナイトの利用を可能としたインフラ整備やリスクの保有のための準備金に対する税制上の措置が欠かせません。

CATボンドは災害の直接損害だけでなく間接損害もカバーできるようになっています。事業継続計画の定着が叫ばれている今日でも地震保険を購入している企業よりもCATボンドを発行してリスクヘッジしている企業の格付けを高くしていく傾向が出てきています。

リスクの保有とリスクの移転の最適化を図ることができるようにリスクファイナンスの手段が自由に使える環境を作り出すことがリスク耐性の強い国家を実現することにつながっていきます。

参考資料 file:///C:/Users/user/Downloads/book_008_kato.pdf