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特集
再保険の構築とリスクファイナンス
はじめに
地震や台風などの自然災害が起こった場合の大きな負担を考えると政府・自治体・経済界・産業界・金融業界・企業・家計・保険・再保険会社も含めてそれぞれが最大限の役割をしていく必要があります。
特に東日本大震災後の被災地では1メートルクラスの地盤沈下が起こったこともあって津波が引いた後も高潮などで水が入り込みやすい状況が続いています。この地域は元々水産加工業で生計を立てているということもあって高台に生活の拠点を持っていくことが難しい状況になっています。企業や地方自治体レベルではどうにもならない問題といえます。
ただ政府の立場から見ると被災地ばかりに長期間金銭や資源を投入し続けることも難しいという実情があります。資源は有限ということもありますので資源分配にはどうしても優先順位というものがついてきます。優先順位が被災者の生活補助や人命救助というところに優先順位がいきます。被災した企業までは手が回らないという事情もあります。今の日本では経済的な被害に対しては個人や企業が自らの責任で行うというのが原則になっています。
ただ今後は自然災害に対する経済の耐性強化を国家としても重視をしていただきたいと考えています。金融システムの維持や損害保険会社が保険提供を拡大するような環境整備などを行えるようにすることが大事といえます。具体的には本格的な再保険市場の構築と再保険のスキームの強化などをしていけるような体制作りをしていく必要があります。
企業とリスクファイナンス
企業経営者は健全時の経営だけでなく被災などの有事の事態にも対応する準備が求められます。避難訓練なども行うことも重要です。それ以上に建物や生産設備がダメージを受けた時でも少しでも早く営業を再開できるような努力をしていく必要があります。備蓄食料や水の確保なども行う必要があります。
企業は家計以上に関わる人が多くなります。株主・債権者・従業員・取引先など多くの方が関わって成り立っていることが多いです。そのような方がいてこそ利益が出て企業活動が成り立っています。企業活動が好調な時もあれば災害のような大きなアクシデントも起こります。このような時も企業を預かる経営者は責任を果たさなければなりません。
企業のリスクファイナンスは難しい問題が多くあります。自然災害のための保険もなかなか作ることはできません。キャットポンドにも限界があります。キャプティブ保険会社やファイナイト再保険なども様々な規制があっていまだに実現はできていません。何から手を付けていいのかも難しい問題といえます。ただ一つ言えることは日本の自然災害リスクを最終的に受け止めていく再保険市場のサポートを得ることができない限りは企業が実効性のあるリスクファイナンスを行うことはできません。
これはたしかに難しい問題といえます。ただ企業にとってリスクファイナンスの課題はどうしても避けることはできません。必ず行わなければならないものであると思っています。保険の拡充の必要性は社会的な流れの後押しも重要になってくるでしょう。まずそれぞれの企業が騒ぐことで産業界の声になって自治体や政府も重い腰をようやく上げてくるのではないかと考えています。この企業の資金が資産運用の一環として再保険スキームに投資をされることによって再保険市場の財務基盤が強化されることになります。そうなることで保険の購入額の拡大が図られることになります。
金融特区から再保険を作る
金融特区とは金融規制の緩和や税の減免そして優遇をすることによって金融機関の集中を促進していく特別地域のことを言います。この金融特区に2002年沖縄県の名護市が指定されました、金融特区は進出企業が一定の条件を満たすことで税制の優遇を受けることができるという制度になっています。
ただ投資家の保護やコンプライアンスさらに現地の雇用を重視する金融庁や名護市やその関係の行政機関さらに企業の足並みが軒並みそろわない状況が続いていることもあって理想とは裏腹に企業の誘致が進んでいないというのが実際のところです。近年は世界的に法人税の税率が低下しています。2002年の時点と2011年の法人税率を見ていくと27.61%から22.96%まで下がっています。こういうところもあって名護市の金融特区の機能も果たしにくくなっているという事情もあります。
この税制面の優遇だけでは魅力がなくなってきています。そこでもう一枚の切り札である規制緩和というものを行う必要が出てきています。そこに地理的な特性・社会的なインフラ・市場とのアクセスなどの個々の要素について魅力を感じた企業や経営者が進出してくるような狙いをするのもありといえます。そこからインフラは充実してさらに大きな市場の形成ができそうです。
金融特区の指定を受けるためには地域の経済復興や日本の国益に適するものでなければ理解を得ることはできません。日本の自治体が金融特区を申請すれば通るというほど簡単なことでもありません。ただ金融特区をしたいという自治体も少なからずあります。日本経済の失われた20年とデフレによる経済の低迷から脱却したいという地域が多くあります。
東京や大阪をもう一度アジアの中の頂点にしたい・シンガポール・上海・香港などに負けたくないという願望を持っている地域もあります。ただその流れを回復することは難しくすでに多くの部門では抜かれていて引き離されつつあるというのが実際のところで日本の存在感はどんどん少なくなっているのが実情としてあります。
日本には再保険市場がほとんど機能をしていないという実態があります。さらに今の日本の状況からは大幅な規制緩和さらに税制面の大きな見直しを早期にできるような状況ではありません。そうなるとこの金融特区という制度が現状を打破する大きな一つになるのではないかと考えています。金融特区ができることでそこに大きな再保険市場ができやすくなります。そこから災害に対する日本経済の安定機能の向上を図ることができます。そうなると海外に出ていた資金を日本で運用することも可能になってきます。日本を軸とした国際的な資金の移動が生まれるなどの様々なメリットがあります。
再保険市場スキームの構築
現状の日本で大きな再保険市場と再保険のスキームを作るためには保険業法と保険の会計制度を超長期的な収支期間と損害の巨額性に対処できるような変更が必要になってきます。そうした状況を作ることによって欧米の再保険市場や保険会社などと同じ状況に近づくことができます。それでやっと勝負になります。
海外資本を日本に呼び込むことは並大抵のことではありません。再保険の実情に合わない規制を緩和して税制や税率についても海外の主要再保険市場との競争に耐えうる制度に変更を行う必要があります。具体的には大きな災害が発生して高額の再保険支払責任などが出てきてしまった場合には取締役会の決議などによって速やかに不足分を送金する制度などを拡充する必要があるということです。
災害の多い日本では再保険においてアジアの中では中心になる必要があります。将来的には欧米諸国に近づくべきであると感じています。日本に金融特区を作ってそこに日本の再保険市場を作るということはとても重要な意義があります。日本経済の安定化だけでなく国際的な資金移動の活性化そしてシンガポールや香港よりも市場の大きさのある日本がアジアのハブとしての役割をできるという点でも大きなメリットになってきます。
日本では制度的な問題もあって再保険市場というものを事実上作ることは難しい状況でした。この再保険市場を作るためには従来の規制の撤廃や税制面などの優遇を行っていく必要があります。ただ実際に国の規制や制度を変えていくことは並大抵のことではできません。これをどのようにして行っていくかは大きな課題になりそうです。
災害は待ってくれない
ただ大きな地震などの災害が来月いや明日にも襲ってくるかもしれません。そのためのリスクファイナンスを早期に構築する必要が出てきます。その一つとしてはファイナイト再保険があります。ただ現在の日本の自然災害でファイナイト再保険が適用されるかは現状のところで不透明なところがあります。
ただファイナイト再保険は地震などの自然災害に対する再保険料の収入を準備金として積み上げることが可能となります。そこから巨大な自然災害に備えるためのファンドを積み上げるスピードが格段に上がります。要は早く資金がたまるということです。同様に再保険会社や再保険のスキームもファンドを短期間で確実に大きくすることができます。自然災害が起こってしまうと難しい面もあります。ただ災害が起こってしまった時のことを考えていくとこのような方法を採ってもいいのではないかという考えには賛同できるところが多いです。
金融特区制度を認めることで実効力を上げるためにもファイナイト再保険というものについてもさらに柔軟に考えてもいいのかなという時期が来たのかなという気がします。ただ日本の現状でその位置に到達するには相当の時間が要するということを覚悟する必要がありそうです。
地震保険は簡単に加入できない
ただ現状では日本の企業地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。
地震保険はまだ大企業などの一部の企業しか入ることができないというのが実際のところあります。ほとんどの中小企業は入ることができません。
また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害にはほとんど適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。