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リスクファイナンスは企業だけの問題ではない

はじめに

火災による建物の消失と地震による建物の消失はどちらの方が可能性が高いのか。東京や大阪などの都市部などでは火災が起きると住家やビルなどが並んでいるので一気に燃え広がるリスクがありますので火災によるリスクは大きなものになります。ただ一般の地方では地震によるリスクの方が大きくなります。

ただ多くの保険加入者は火災保険への加入を優先します。そこで保険料を上乗せして払うが厳しいので地震保険への加入をためらいます。また企業の地震保険の場合だと損害保険株式会社の事情もあってなかなか地震保険への加入が進まないというのが実態です。企業の地震保険への加入率は今でも10%あるかないかというところです。日本という地震のリスクを抱えている国でこの加入状況というのはとても低いなというのが印象です。

火災保険と地震保険には大きな差がある

事業継続計画(BCP)でも日本は地震へのリスクが低いというのが明らかになっています。企業は火災事故には保険で対応しています。ただ地震や津波そして洪水などの自然災害には保険がないということです。付帯で保険が付いていても火災保険の上限30%までという感じになっていて地震への備えが低くなっています。

これには大きな理由があります。日本の家計地震保険は大地震などの壊滅的な被害を受けた場合には、損害保険会社だけでなく国も補償に協力します。大きな災害になるほど国の補償の割合が高くなります。ただ企業の地震保険にはくには補償しません。損害保険会社のみが補償をするルールになっています。

これは国は国民の必要最小限度の住居というものにはそれなりの補償をしていきます。ただ事業の利益というものに対しては補償を行いません。たしかに事業利益というとどこまでを補償しなければならないなどの難しい問題はあります。この国が関与しないというところに企業の地震保険への加入が進まないという実情があります。損害保険会社も大きな地震が起こってしまうと企業への補償で会社がつぶれてしまうリスクがあるのでなかなか踏み込めないという実情があります。これは大きな問題といえます。

一部の保険会社は海外の再保険会社に加入して大きな災害への補償を行っています。ちなみに再保険会社というのは保険会社の保険会社です。地震保険のように大きな損害が起こってしまうと保険会社だけでは対処できないことが多くなります。そのための保険をかけておくということです。ただこの国際再保険会社も一度大きな災害が起きてしまうと保険料が出払ってしまうことが多くなります。災害後の保険料率が2倍程度になってしまうことも度々あります。このため日本の損害保険会社にとっては大きな保険を払う割にはメリットが少ないことも多くなります。こういうこともあってこの国際再保険という制度もあまり浸透はしていません。

経営者には大きな責任がある

さらに企業の経営者の大半は地震保険というものを知りません。ある保険の凄腕営業マンが知り合いにいます。その彼の話では地震保険の加入を企業経営者に促しても8割以上の方はこの存在すら知らないという方です。このような状況では企業の地震保険の加入率が劇的に向上するという状況には見えません。

たしかに国も損害保険会社もこの企業向けの地震保険というものに関しては目をつぶっている感じがします。ただ企業経営者の方もここに関心を持たないという点では大きな問題といえます。

経営者の方は従業員・取引先・顧客・債権者・株主に対して企業利益を最大にしていくという任務を負っているはずです。さらに政府・国民・社会などに対しても健全な企業運営という責務があるはずです。時々の状況に応じて経営戦略を立てていくことが重要になってきます。そこから企業利益を最大にしていく・業績を安定させて継続的な事業を行っていく・株価を向上させて従業員の雇用を確保していくことなどを行っています。

また経営者は災害が起こったときの従業員の安全の確保や経営の被害を最小限度に済ませるという責任があります。従業員などが被災した場合の応急資金や復旧資金なども含めて多くのものを確保する必要もあります。従業員で利益を得ている以上はそうなったときの対応ができるような準備をしていく必要があります。

被災者の雇用が進まない

東日本大震災後も被災地の従業員の雇用はあまり進んでいません。企業自体が地震や津波で損壊してしまったことを考えると難しいという点もあります。震災後1年が過ぎた現在で宮城・岩手・福島の沿岸地域にあたる被災地の企業は730社ほどが倒産しています。2035社が自主廃業・5039社が休業しているという状況です。さらに12万人という膨大な数の失業者がいます。これには東北に支社や工場などを置いている首都圏地域の大企業もかなりの影響を受けているものと思われます。

地震保険という概念が企業や経営者側にもう少し浸透していれば被害は半分程度で収まっていたかもしれません。被災者の方の一部はいまだに生活が改善していません。たしかに被災地の方は高齢の方が多いので難しいところもあります。ただもう少し企業側が地震保険という存在を知っていれば少しは被害を小さくできたかもしれないと思うと残念な気がします。

そこから長期間にわたる税制の落ち込みと政府による復興目的の赤字国債の膨大な支出を生み出しました。そこから国民にも復興増税という形で負担を強いています。それでも被災地の復興は満足に進んでいません。多くの失業者を生み働ける場所が少なくなったということで被災者はやむなく地元を出るという決断をした方も多くいます。ということで若年中堅世代などの若者を中心にして人口の減少が続いています。被災地にとって企業を失うということは生活の基盤を失うということです。住居があっても仕事がなければ生活が成り立たなくなる方が多くなります。こういう面のリスク管理をもっとすべきではないかと思われます。

リスクファイナンスは重要

経営者の方は事業を継続させるというだけではなくリスクファイナンスを行う必要と責任があります。大きな災害が来た時には被害額や事業の再開には多くの時間と莫大な利益を失います。事業の継続利益に対するコストそしてリスクファイナンスに対するコストがかかることを考えてもこの費用を払った方が経済的にも合理的な場合が多くなります。

物流が3週間も滞ると世界中の生産がマヒをしてしまう可能性があります。そのような企業は取引先として敬遠をされてしまうことが多くなります。このリスクファイナンスについて関心を持たない企業は少なくても国際的な取引においては大きな損失を抱えるといっても過言ではありません。

さらにリスクファイナンスというものを行っておくと企業が資本市場から信頼を得られます。企業価値を高めるという点で大きなメリットがあります。このようなところからも外資系企業・大企業・優良中小企業などの経営者の方はこのリスクファイナンスというものにもっと注力をしてもいいのではないかと考えています。

痛みは生む

今まで手をつけなかったリスクファイナンスというものを行うには多くのコストがかかります。製品コストの高い日本企業にさらなるコストをかけることは日本企業にとっては厳しい負担になります。ただ国際的な企業間競争を勝ち抜くにはどうしても避けられない問題ともいえます。また銀行や損害保険会社も顧客企業に対するリスクファイナンスに対してのサポートをもう少し行ってほしいと考えています。

ただほとんどの企業は国際再保険や構外利益保険というものにコストをかけていません。企業も利益が多くないという理由があってなかなか加入が進まないというのも実際のところといえます。また損害保険会社も地震や津波などのいわゆる自然災害へのリスクについては積極的な引受をしにくい状況になっています。

このようなこともあって日本企業のリスクファイナンスは海外の企業と比較しても大きく遅れています。特に自然災害のリスクファイナンスに対してはほとんど対策ができていないというのが実際のところです。この状態でもし次に大きな災害が来てしまうと国・企業・国民という日本全体が大きなダメージを受けてしまいます。このような事態になることは極力避けなければなりません。

リスクファイナンスは国全体の問題

リスクファイナンスは個人や企業だけの枠で収まるというものではありません。日本政府・財界・産業界・金融業界などのサポートが必要不可欠になってきます。まずは金融機関からの資金の借り入れ方法や保険などの金融商品の見直しさらに金融市場の拡大さらに政府を含めた再保険市場の創設などの大幅なリスクの受け皿を構築する必要があります。そのためには規制や税制面の変更も含めて膨大な時間とコストがかかってしまいます。いつ実現するのかも本当に不透明な状況ともいえるほどの大変な状態です。

地震保険は簡単に加入できない

ただ地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。

ということもあって地震保険は大企業などの一部の企業しか入ることができません。ほとんどの企業は入ることができないんです。

また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害には適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。