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オリエンタルランドのリスクファイナンス

はじめに

東日本大震災は震源地から遠く離れた関東地方でも大きな被害を受けました。その一地域で浦安にある東京ディズニーランドも地震で1か月ほど休業しました。さらにこの地域は今後もマグニチュード7程度の地震が起こる可能性は高くなっています。

そのようなこともあってディズニーランドを運営しているオリエンタルランドは万が一のために備えた対策を始めました。

融資枠を上げていきたい

2018年秋にオリエンタルランドからみずほ銀行に「枠の増額について相談をしたい」という話がありました。この増額というのは地震のリスクに対応する融資枠の引き上げになっています。この話を経て融資枠を上限1000億円から1500億円にまで上げることで合意しました。

融資枠は災害時にオリエンタルランドが最大1500億円を引き出すことができるようになりました。生活に欠かせないインフラ企業であればともかくとしてレジャー産業で地震対応の融資枠を付与していくという例はあまり例のないことといえます。

融資枠を引き上げた根拠

このように融資枠を引き上げた根拠としては2つあります。1つ目は実際の借り入れから返済までの期間が60年とかなり長いことです。仮に復旧に時間がかかっても余裕を持って返済をできるような状況になっています。

2つ目のポイントは新株の予約権を発行して銀行団に割り当てる形になっています。銀行では東京ディズニーランドが多大なダメージを受けて返済が滞る場合にも新株を取得して資金を改修することができる仕組みを行っています。

この新株予約権が発行されると株式数が増えることによって逆に1割程度の株の希薄化につながります。そこで新株の行使に厳しい条件をつけていくことで既存の株主に配慮しています。

この新株予約権の行使ができるのは地震が舞浜から75キロ圏内などの契約で定めた範囲で発生すること・マグニチュード7.9以上・手元資金や現有資産で借入金を返済しないなどの条件がついています。このマグニチュード7.9クラスの地震の起こる可能性は今後5年間で1%程度のようです。

このマグニチュード7.9という規模はオリエンタルランドの設備を運営していくには軽微な影響が出る程度のようです。ただ交通面でのインフラの影響や消費の冷え込みなどが大きく影響してくるのではないかと思われるほどの規模といえます。津波に関しても適切な対応を取ることによってほぼ凌げるのではないかという考えでいます。

ただこのマグニチュード7.9という辺りになってくると、オリエンタルランドの経営面での影響に小さくない影響が出るのではないかと考えられる規模といえます。そこでこのマグニチュード7.9という地震の発生を本資金調達における劣後ローン債権者及び投資家ローン債権者の期限前弁済請求に関連する条件としました。

またオリエンタルランドは1999年に事業会社で初の地震証券を発行しています。舞浜近郊で一定規模の地震が起きた場合には元本分を利益として受け取れる仕組みを採用しています。

資金調達を選択した大きな理由

オリエンタルランドがこのような資金調達を決断した理由は次のようになっています。

まず1つ目は地震など災害が発生した場合に運転資金と設備復旧資金の確保が重要になります。その資金を超長期で確保することが可能であることが挙げられます。

2つ目は劣後特約が付けられているで一般債務の契約期間よりも超長期とすることができます。一般債務の調達余力への影響を低減することが可能になります。今後の設備投資や成長への投資のための調達余力への影響を限定化出来るという点です。

3つ目はが劣後ローン債権の期限前弁済請求を求められた場合でも当該請求に対して現金による弁済を必ずしも行う必要がなくなります。また現金以外の資産による弁済により債務を消滅させることが可能となっている点です。

4つ目は新株予約権の行使に際して出資される財産は劣後ローン債権の元本債権に限定されています。そこで新株予約権の行使によって劣後ローン債権に係る負債が消滅して資本に振り替えられます。そこから財務基盤の強化が図ることができます。

5つ目は新株予約権の行使によって交付される株式数は抑制されています。そこから株式の希釈化の程度が限定されていることも原因になっています。

6つ目は劣後ローン債権の一部または全部を返済すると、返済した金額に対応して出される一定の新株予約権の行使はできなくなります。よって希釈化の可能性が大きく減るもしくはなくなる可能性も期待できるという点があります。

7つ目は普通株式の新規発行及び自己株式の処分は、資金調達と同様に超長期資金の調達が一時的に可能となります。ただ一株当たり利益の希釈化も引き起こされるというデメリットも起こり得ます。そこで今回の資金調達を行うことで資金調達のような株式の希釈化の可能性を少しでも小さくすることが重要となります。

8つ目は普通社債の発行やコミットメントラインを含む銀行からの借入による資金調達を行うことで株主の方への株式の希釈化はほとんど生じません。ただ資金の調達年限が限られたものとなってしまったり、資金調達による資金の使途や目的が不十分になってしまうことも考えられます。ここは今後の課題ともいえます。

新株予約権発行のメリット

新株予約権発行のメリットとしては、まず通常の行使価額修正条項付新株予約権とは違って新株予約権の行使に際して出資される財産を劣後ローンの債権に限定していきます。そこで新株予約権の発行と同時に劣後ローン契約により定額の資金調達を行うことができます。そこから新株予約権と劣後ローン債権の組み合わせによる資金調達額に変動がでないということが挙げられます。

あとは新株予約権の行使価額には下限の行使価額が設けられています。それは新株予約権の行使により交付される最大の株式数が予め決定していることそして本新株予約権の行使及び行使価額の修正ができるということです。

さらに新株予約権の行使及び行使価額は株主の皆様への希釈化による影響は通常の行使価額修正条項付の新株予約権に比べて限定化されていることなどが挙げられます。

新株予約権発行のデメリット

新株予約権発行のデメリットとしては、新株予約権が全て行使されてしまうと最大で11111111株の当社普通株式が交付されます。そうなると株式の希釈化につながる可能性が高まります。そこから株価の下押し圧力が生じる可能性がでてきてしまう可能性があります。

あとは新株予約権が行使されると、投資家ローン債権者に対して普通株式が交付された場合に株式の保有方針について投資家ローン債権者との間には一切の取り決めがありません。そうなってしまうと投資家ローン債権者が交付された株式を市場で売却する場合には需給の観点から株価の下落要因となる可能性が出てきます。

③ 行使価額の修正条項によって行使の完了まで交付される株式数が確定しないと、長期間にわたって潜在株式が発生し続けることがなります。

今後に不安もある

東日本大震災では一部計画停電の影響も受けました。また静岡などの東海地方が震源が影響の地震で東京ディズニーランドの営業ができなくなってしまう可能性もあり得ます。遠隔の地震で影響ができなくなることも考えて震源に関係なく超長期の借り入れができるようになりました。ディズニーランドは2022年度までに東京ディズニーシーを2割ほど拡張していきます。

オリエンタルランドは2019年初に発行した社債と今回の1500億円の融資枠ができました。これで仮に地震などの影響で最大6か月間の営業ができなくなったとしても設備投資も行うことができそうです、また全従業員の支払いを行うことができます。

ただ現在3000億円以上の手元資金を持つオリエンタルランドでは希薄化になってしまう新株発行を行う可能性は低いのではないかとも言われています。

このディズニーランドを舞浜一極集中にすることは大きな課題といえます。過去に地方の娯楽施設を検討したこともありました。ただ現状の東京ディズニーランドというものが最も高い投資効率を生むのではないかということが社内外で言われています。

舞浜の一極集中で高収益を実現しつつリスクを抑制していく保険をかけていくのが最良ではないかという経営判断になりました。退路を断ったうえで後は拡張投資をしていくだけといえます。

オリエンタルランドはレジャー産業としてはかなりの大企業といえます。ただこの地震保険のリスクファイナンスをレジャー産業が積極的に行うとはあまり予想をしていませんでした。できれば沿岸部に拠点を多く工場や倉庫などにもっと積極的な姿勢をとっていただきたいと考えています。